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摩訶不思議アドベンチャー in 尼崎

1996年の夏、友人7人くらいで尼崎にあるN君の実家に泊まりに行ったときのこと。
そこはナメック星だった。

N君の母『サッチー』はヒロタのシュークリームが大好きだとのことで、最寄り駅降りたところでそれを買って手土産に持っていった。
サッチーは受け取るやいなや、
「いらんのに!いらんのに!こんなんいらんのに!ほんまいらんのに・・・」
と言いながら、それを持って奥に引っ込んでいった。
おそらく「こんな気遣いはいらんのに」という意味だったと思われる(そうじゃなくてもそう思いたい)が、そんなに「いらんのに」言われたら、悲しい気分になった。
かなり手強いとは聞いていたが、いきなりその片鱗を見せつけられた。

リビングに通されると、「お茶でものむ?」と訊かれた。
シュークリームで出鼻をくじかれたため、ここで攻めなければ完封されると思った僕は、
「コーラがいい。」
と恐る恐る言ってみたところ、
なんと、嫌な顔ひとつでコーラを買いに行ってくれたのである。
下手したら瞬殺も覚悟していたのだが、案外やさしいところがある。

しばらく待ってると、近くの自販機で買ってきたであろうコーラと一緒に、昨日の残りだというおでんも運ばれてきた。
鍋に入ったその暗黒色の物体は、限界までダシを吸い尽くし、これ以上煮込むと素材の味が台無しになってしまうギリギリのラインだった。
料理人のスキルの高さが伺える至高の逸品であると同時に、一歩間違えば危険な領域に踏み込んでしまうものであり、これを客に振る舞う勇気に感服せざるを得なかった。

夕食は外で済ませ、近くの公園で花火をした。
ロケット花火は栽培マンのように爆発した。
ヤムチャの二の舞にならぬよう細心の注意を払った。

家にもどると風呂をすすめられた。
浴室には下ろしたての同じようなボトルが2本並んでいた。まるでザーボンさんとドドリアさんのような佇まいだった。
息子の友人のためにわざわざ新しいのを買って用意してくれたのであろう。
1本を手にとって確認すると、シャンプーだったので、それで髪を洗った。
で、もう1本を当然リンスだと思って髪につけると、またも泡立ってきた。
両方シャンプーだった。
すごく髪がキシキシになった。
どうしてこんなトラップを仕掛けるのか。2本ともドドリアさんだった。

風呂から上がり、リビングの戸棚の中にN君の父が大事にしていた高いウイスキーがあったので、みんなで飲んでいたら、サッチーが夜食をもってきてくれた。
N家に脈々と受け継がれる秘伝の料理らしい。

  




  

「これはあかん・・・。」
料理の名前は『ツナ寿司』、口にするのはおろか、触れただけでも酢飯の酸が皮膚から侵食してくるに違いない。
どうやらヨソ者を殲滅するつもりのようだ。
視覚効果だけでも相当の破壊力であり、食べたときのダメージは仙豆でも回復しないのが直感的にわかる。
あまりの禍々しさの前に、「出された料理に手を付けないのは失礼だ」などという平和ボケした感情は微塵も生まれなかった。
みな絶望の淵へと追いやられ、もう大人しく寝るよりなかった。

キシキシの髪のまま寝たら、次の日はひどい寝癖がついていた。
スーパーサイヤ人のように逆立っていた。
一番に目が覚めてしまったので、やることもなくリビングに行くと、キッチンの方から、
「おはよう」
と声をかけられた。
そこにいたのは、ネグリジェ1枚のサッチーだった。しかもシーススルーの。
白を基調に、透けた体の一部は紫色だった。寝るときのテカテカのシルクの帽子まで被っていた。
「フリーザやん・・・。」
しかも第2第3すっとばして最終形態。
昨日のちゃんと戦闘服を着た第1形態でも戦闘力53万だったのに、今はほぼ裸で1億をゆうに超えている。
絶望的だった。
ただ立ち尽くすしかなかった。

その後、東京に戻ってくるまでの記憶が無い。
キレた悟飯ちゃんのように記憶が飛んでいた。
決定的な違いは、彼らは勝利したが、僕らは惨敗したということだ。